世界で一番大切な



マスターが気に入ってくれている(と自負している)とっておきの微笑を向けて、セーターを握るマスターの手の指を一本一本外しそのまま腰に回させた。そして私の両腕はマスターの背中へ回る。あまり体に良くはない生活のせいかさほど大きくない体躯のマスターの体温は高い。所謂子供体温と呼ばれるものなのだろう、平均的な体温の私には心地よい。


「サギリ、サーギリ、」


歌うようなマスターの声は心地よく耳から入り込んできて全身へと回る。即効性の毒や媚薬のように私の動きを止め、そして熱くさせる声。ちょうど私の胸の下辺りにマスターの頭があり、声がそこから直接体内に叩き込まれているような錯覚を覚えて目眩がした。

なんと甘美な想像なんだろうか、私の体の中をマスターの声が駆け巡るなんて!

< 7 / 13 >

この作品をシェア

pagetop