世界で一番大切な
私が自分を抱き締めたままでそんな想像をしているなどと思いもよらないだろうマスターは私の腰に腕を回したままでゆっくりと瞬きを繰り返した。
この年代の男性にしては長いだろうまつ毛が影を落とす。マスターに回していた腕を外して、その柔らかな髪を撫でた。
ずっと家の中にいるためか雪よりも白く見えるマスターの肌に良く映える漆黒の髪は艶やかな見た目に反して猫のそれのように細く柔らかいのだ。
「今日はお昼寝はしましたか?」
「…てない」
「じゃあ夕食まで寝ていて下さい、出来上がったら起こしますよ」
「きえない?」
「えぇ」
「サギリ、いるならねる」
抱き締めていた腕を解いてまたセーターを握るマスターの髪を撫でながら、私は小さく笑った。