出世魚
「栗原さん、今わざとまけたでしょう。」
「そんなことないですよ。」
「いや、そんなことある!栗原さんが
あんなミスするはずないもん。」
「私だってミスぐらいしますよ、
ていうか、目がシパシパしてよく見えなくて。」
「あ、ごめん。俺ばっか夢中になって。」
「いえ、そういう意味で言ったわけじゃ…。」
気付けば2時…やり過ぎだろ。
「ごめん、遅くまで引き止めちゃって。送るよ。」
「大丈夫です、家近いんで。」
ふらふらと荷物を抱え、頭を下げて帰ろうとする私。
「駄目だよ、夜道女子一人危ないって言ったの栗原さんだよ。」
「そうですけど、私は大丈夫な分類なんで。」
後ずさりしながら、ドアノブに手をかける。
「そんなことないよ、栗原さん可愛いから危ないよ。」
「…ご冗談を。」
「冗談じゃなくて、ホントに。」
「やめてください、照れます。」
久江さんがドアノブにかけた私の手をはずす。
「ほんと、、って言いすぎるのもウソくさいけど
栗原さん、可愛いよ。」
「…。」
私の正面に立って微笑む久江さん。
照れる、恥ずかしい、でも嬉しい、どうしたらいいんだろう。
「結婚してなかったら、とっくに告白してた。」
結婚…。
久江さんの肩越しに、子供が書いたであろう絵が見えた。
「妻帯者の常套手段…。」
「えっ?」
< 39 / 46 >

この作品をシェア

pagetop