歴史
 そして現在。

 B国のある男が自らの先祖をモデルにして書いた小説が、国中で人気を博していた。

 その内容はこうだ。悪辣なA国がB国に戦争を仕掛け、賢王を排した二百年前の戦争末期。A国の兵士に家族を殺された少年が、仇敵に連れ去られた恋人を取り戻し、そして結ばれるまでを描いた勧善懲悪の物語。

 敗戦の屈辱を今なお引きずるB国の国民は、劇中の随所に描かれたA国の暴虐さに憤慨し、物語の主人公を英雄として祭り上げた。

 ごく少数の歴史家が、モデルとなった人物が自分の家族を皆殺しにした大罪人であったことを突き止めたが、真実を告げる彼らの言葉は自国の正当性を盲信する大多数の意見に埋もれ、表に出ることはなかった。
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