合縁奇縁~女は欲張りな生き物なのです
その時、再び、玄関のベルが鳴った。

あたしは、黙って席を立つ。

きっと、樹だ。

舞子を迎えにきたんだ。

案の定、そこにはちょっと情けない顔をした樹が立っていた。

「舞子さん、来てるよね? なぁ、姉貴? 俺ってそんなに嫌われてる?」

自信無げに尋ねるその瞳は、子供の頃の面影そのままで、あたしは思わず励ますように微笑んでいた。

「大丈夫、そんなことないよ。舞子は恥ずかしかったんだよ」

「えっ?」

「舞子はね、一番に大切にされることに慣れてないんだよ」

少しの沈黙のあと、

「わかった」

そう頷いた樹は、何かを決意したようだった。
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