合縁奇縁~女は欲張りな生き物なのです
帰り際、舞子が玄関先で雅樹と遭遇。

「あれ、舞子さん、もう帰るの?」

「はい。下で樹が待ってるんで、また今度ゆっくり」

と、完璧な笑顔で微笑んだ舞子。

さっきまでの不安は何処かへ吹き飛んだのかな。

二人の未来に明るい希望の光が射した瞬間。

舞子は颯爽と、樹の待つ部屋へと戻っていった。

「いいのか? 舞子さん帰しちゃって」

「いいの、いいの。今日から同棲生活開始なんだってぇ」

「えっ、そういう話になってんのかぁ。
いいなぁ、初々しくて。
俺達も頑張んないとなぁ~」

「何を?」

「そろそろ、二人目を仕込まないとな。
裕樹を一人っ子にはしたくないだろ?
産むなら続けて、早いうちに産んだほうがいいぞ。
俺も若くないんだしな」

二人目を考えてなかった訳じゃない。

でも、日々の暮らしがあまりにも忙しくて、現実的に捉えることが難しかった。

これからまた悪阻がきて、お腹が大きくなって、産休とって、出産して……

嗚呼、でも……

「裕子?」

雅樹と裕樹と暮らすこの幸せに、更なる未来があるとすれば……

「あ、ごめん。ま、兎に角、ご飯にしよ。トンカツ買ってきてくれた?」

「勿論、揚げたてだぞぉ」

「う~ん、雅樹、愛してる!」

「俺だって」

それが自然な姿なら、頑張ってみようかな、もうちょっと。

そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、雅樹があたしを優しく抱きしめキスをする。

この幸せがあたしの生きる力。

って、単純だなあたしも。
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