腐女子とナル男の奮闘記。
*--凌side--*
──きゃあきゃあ~……
──隼人様~……
「ちょっ!凌ったら!そんな本なんて見てないであの集団を一緒に見よーよっ!!」
チッ……なんなのよ。
「美貴、あんま肩揺らさないで」
「そんな冷たく言わないでさぁ~っ!
はっ!い、今、雅巳様と目があったわ!!きゃーっ!!かっこいいぃ~♪」
思わず眉間に皺を寄せて、遠くの5人組を目を細めて見つめる。
目が悪いから顔がよく見えないという理由で百歩譲っても、全くもって何がいいのかサッパリ分からない。
さらにその5人組の何人かは手を振りながら歩いている。
えっ、この学校ではディ○ニーランドのパレードかなんかが行われるんですか?すごいサービスだね、うん。
そう考えている間も、耳がつんざかれるような女子の悲鳴は途切れることはない。
大体朝っぱらからなどいつもこいつも、何故あんな高音出るんだか。
普通の朝ってものは静かに薔薇の咲き誇るテラスで……そう、こんな風に。
あたしは本に目を落とす。
「……本来ならば静かに紅茶を飲みながら、クロワッサンを食べ、薔薇の咲き誇るテラスで朝食。咲夜はまだ少し重たい目のまま、クロワッサンへと手を伸ばす。
その時。
冬夜の手も伸びてきて、ふと触れ合う。思わず手を引っ込めようとした咲夜の手を、冬夜がすかさず捕まえる。目を見開き、サッと頬をリンゴ色に染める咲夜。思わず視線を逸らす。でも冬夜はそれを許さない。
「は、離せよ……!」
「それは出来ないな」
「なっ!いいから離せって!」
「指図するにしろ何にしろ、まずはちゃんと──俺を見ろ」
腕はガッチリと捕まれ、離されない。仕方なく瞳を潤ませながら視線を戻す、咲夜。絡み合う視線。無言のまま甘い香りに包ま……「はいはーい!!分かったからっ!朝っぱらからBL本を音読しなくていいっ!!」
美貴に頭をペちっと叩かれる。
「じゃあ美貴も朝っぱからぎゃーぎゃー騒ぐな。馬鹿がうつる」
「もう~!相変わらず毒舌だなあ……。てゆーか朝からBLノベルを読みふける方も方だと思うけどなあ」
美貴はため息を一つこぼす。
そう、あたし黒須 凌はBLにどっぷり浸かったいわば"腐女子"。