ぞうがめとかげろう

彼女が残してくれたもの。

さ、

笑って。

今日一日
泣き顔は禁止よ。

そうだ
そうだよね。


特別なこと…
楽しいこと…

そうだ!

僕はすごいことを
実行に移した。
柵を体当たりで壊して、外へ出たんだ。

後ろでは、人間たちが大騒ぎしている。

あはははは!
外だ外だ!

ずっとあの中で
ストレスがたまってたんだ!
すっきりしたよ。

そうよ!
やればできるじゃない。
行け行け!

よーし!

僕らはそのまま、あちこち歩いてまわった。

いろんなものを見ながら、いろんな話をしながら。

僕も彼女も
たくさん楽しんで
たくさん笑った。

やがて夜になり
僕は時計を見た。

十二時

その時がきてしまってた。

彼女の一生の終わる時が。


僕は必死に
苦しんで彼女に呼びかけた。


しっかりして!

お願い
いかないで!

いっちゃいやだ!
いやだよ!

こ…ら
泣き顔は禁止だって言ったでしょ

まだ今日は終わってないわよ。

でも
でも!

特別な…一日に…
なっ…た…でしょ

うん

なった
なったよ!
ありがとう!

良かっ…た…
私の…生きた証し…もうひとつ…残せた…
忘れ…ないで
ずっ…と


それっきり彼女は
動かなくなった。

僕は一晩中
泣いてしまった。

次の日の朝。
彼女がいた僕の体の隙間に
半透明の小さなものが残されてた。

卵だった。
彼女の生きた証しが残っていた。

僕は自然と、笑顔になってた。

卵と
特別な一日。


彼女は生きた証しを 二つ残していった。

百年前のあの日に。
終わり








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