わたしと保健室と彼~4つのお題+α
こんなに広い高級マンションに独りで住んでいて。
何度か家族はどこにいるのかって、聞いた事があった。
でもその度に、先生はどこかせつな気に笑っていた。
「お腹が痛いと、保健室に行ったんですが、保健医は寝てれば治ると病院への連絡はおろか、家にも連絡しなかった。
けれど、実はそれは虫垂炎…盲腸だったんです。適切な処置を受けられず放課後まで放置され、帰宅後病院に駆け込んでも手遅れでした。破裂してしまったんです」
「ひどい…」
そんな、そんな事があるなんて…
「許せない」
怒りを露にしたあたしに、先生はクスリと笑んだ。
「だから私は、保健医になろうと思ったんですよ。二度とこんな事のないように…」
「そっか。……ごめん、変な事聞いて」
先生の手を握ると、微かに力が込められたのが分かった。
「貴女の為なら、いくらでも――」
身を屈めて、先生の顔が近付く。
目を閉じると、触れるだけの優しく柔らかいキスが降ってきた。
おでこに、頬に、――唇に。
「でも貴女の事は、生徒だからじゃないですよ。もう二度と、愛する人を亡くしたくないんです」
そのまま耳元に流れた唇が、囁いた。