僕の唄君の声
(玲視線)
婆さんが出て行った後、すぐに壱葉が部屋に入ってきた。
「‥れーい、」
「ん?」
「玲まで、私の昔を背負わなくていいんだよ。」
まるで、さっきまでの会話と空気を知っているような言葉だった。そして、俺が付き合い始めてからずっとずっと悩んでた答えをスルリと持ってきた。
好きな人の全ての傷を理解しなければ。
壱葉の過去を、全部ぜんぶゼンブ。
でも、その傷に俺は堪えられない。
どうしたらいい、俺は、どうすれば
「玲は私に『これから』を教えてくれる人なの。私の傷は、私のものだよ。」
「‥でも、それじゃ壱葉が辛ェだろ」
「だから、一緒に苦しまないで。玲は、私を幸せにしてよ」
目の前で壱葉は、これからの幸せを欲した。今までの傷は誰にも理解し難いもので、それは他人に分け与えるものでは無いのだ、と。
ボフン、とベッドに座り、近付いてくる壱葉を抱きしめた。下から働く力に抗うことなく壱葉はカク、と膝立ちをした。
そしてポンポン、と俺の背中を摩りながら、
「大丈夫大丈夫、大丈夫、大丈夫」
と俺に言うように自分に言い聞かせるように呟き続けた。
私は貴方が居るだけで幸せよ。
大丈夫、大丈夫大丈夫、
私の傷は一生もので、
身体からも心からも消えないけど
貴方からもらう「幸せ」を、
たくさんたくさん塗りたくれば
少しはきっと隠れるから。
ねえ、貴方は私の苦しみを
理解しちゃいけないの。
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