僕の唄君の声


紳士と思ったのもつかの間。
玲はなんとも言えない雰囲気を纏っていた。


コツコツ、
ズル、ズル


玲のローファーの固い音と
私の愛用サンダルのだらし無い音。

それだけしか住宅街には響いていなかった。



「(付き合いたてのカップルの空気なのかなこれ。)」



ふ、と疑問に思った。

玲はなんで私を好きなのか、とか
本気な彼女居たのかな、とかまあ、色々。


隣を見ればiPodの画面に照らされながら、曲を選んでいる様子の玲。



「くそ、かっこいい」


ぽつりと呟いた言葉は曲を聴いている玲には届かなかったようで、呑気に鼻歌なんか歌っていた。


「ばーかあーほ私だって普通に純情な恋がしたいんだけどーなんでアンタはそんな大人びてんだばーかばーか、ばー‥か」



聞こえないことをいいことにブツブツと隣で暴言を吐いていると、なんだかそれが無性に悔しくて悲しくて訳が分からなくて。




「ばああああか!」

「‥は?」


さすがに叫び声は聞こえたようで、ポッカーンて顔して玲はこっちを見た。



_
< 117 / 133 >

この作品をシェア

pagetop