僕の唄君の声
『ごめんね、壱葉っ!夕飯はあるもので適当に作って!』
少しばかり機械的な音が混じったママの声。とても温かくて優しかった。同時に失望をさせるには抜群の効果もあったけど、ね。
『…分かった。頑張ってね』
カチャリ
受話器を元の位置に戻せば床に吸収されきらなかったトン、トンという足音が背後から聞こえた。
『いーちはチャン。あーそびーましょッ!』
バキッ
『ぐ、ぁ』
『なァ、お母さんは帰らないのォ?』
『…や、きん』
バンッ
『っつ!』
『ギャハハッ!そっかそっかァ』
ドゴッ
『…ガハッ』
『お楽しみタイム始まりだなァ!』
ガンッ
『っぐあ…』
いつも暴力を始める前にはお楽しみタイムの始まりと言っていた。…お楽しみなんかじゃない。むしろ地獄だといつも思ってた。
「これ以上の地獄はないと思った。誰も助けになんか来ないのを分かってたから。」
ママに助けを求めるなんて以っての外。我慢するしかなかった。対面している黒い壁があまりにも大きくて何をやっても無意味な気がした。
――…それを痛感したのはその日の夜。
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