僕の唄君の声


階段に座り、壁に背を預けるように座って目を閉じれば意識は簡単に遠退いた。
それでも頭の中を駆け巡るのはさっきの出来事だけで。

こういう時に書きたくなるのが詩。迷ったときとか悩みだとかをぶつけると体が楽になる。一種の現実逃避みたいなものだ。


「てか、会って二日で好きになるって…」


こんな自分に飽きれつつ、愛用のノートとシャーペンを引っ張り出す。





窓を開ければ冷たい風が
君の匂いを連れて来る
ただそれだけで僕の口許は緩むんだ

僕の体を包み込んだ君の体
触れた瞬間に頬を想いが伝い出す
パタリと落ちていくその想いは
虚しくも足元の床へと
吸い込まれる

瞳から溢れる想いのように
僕の心が容量オーバーになれば
溢れ出る気持ちは僕の喉を震わせて
「好き」という二文字を
言わせるのだろうか、

失ったものは
これから先の平凡な日々
得たものは
君を欲っする君依存症な心

大好きなんだ、ともう一度だけ呟こう。





書き終えた詩を読み返せば、なんとも女々しい自分の姿が窺えた。自分を嘲笑うように鼻で笑えば、これまた虚しくなるわけで。
大きなため息をつきながら携帯で時刻を見れば、まだまだ華己が来るであろう時間には程遠い時刻だった。

暫くボーっとしていればユラリと体は揺れはじめ、瞼は重くなり意識は遠退いていった。









最後に見たのは詩を書いているときに思わず書いてしまった、『玲』という文字だった。



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