僕の唄君の声

(玲視線)


場所は変わって体育館脇。
俺の目の前にはさっきの女。

変わったことと言えば、場所とこの意味の分からない女の態度。
さっきまでは可愛らしい雰囲気を醸し出していたコイツは、場所を変えた瞬間に豹変した。



「何なのよ!さっきの女は!」


「は…?」


何を言い出すのかと待てば、急に飛び出してきた意味の分からない台詞。


「は、じゃないわよ。見たんだから!タメの女抱えてたじゃない!」


「あぁ、あれね。それが何。」


「は…?」


「は?はないだろ。…ていうか、アンタに言われる筋合いなんかねェよ。」


そう、俺が目の前の女にあーだのこーだの言われる筋合いなど微塵もない。



何故か?
簡単だ。だってコイツは…



「あ、あたしのこと抱いたじゃない!」


「おう、一夜限りでな?」


コイツは、壱葉が部活に来たあの日に見つけた女だ。



「……っ!」


「何、期待したわけ?俺の女になれるかもしれねェ、自分だけは特別、とか思ったわけ?」


「だ、だって!好きだ、って…」


「お前が言えって言ったからな。」



喘ぎながら戯れ事を吐くコイツを黙らせたくて、ただ言った。それだけだ。その言葉に、意味など無かった。



「分かったか?」


「…さ…、て」


「…あ゙?」


「…最っ低!」


「褒め言葉にしか聞こえねェな」


ハッと鼻で笑えば、悔しそうに俺を睨む女の目はチラ、と校舎に向き、そしてまた俺へと焦点を変えた。





その目に、先程までの憎悪は無かった。





あるのは、余裕そうな薄ら笑い。

ただそれだけ。



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