僕の唄君の声
(玲視線)
「‥‥!」
キスされた、目の前の女に。
別に初な男を演じるつもりはないが、それなりに驚いた。しかし、それ以上に壱葉に見られていないかどうかの方が脳内を支配した。
女には手をあげない主義、というか、まあ当たり前のことなのだが、力ずくというのは基本しない。
が、今回は体が反射的に動いた。
グイッ
「、はあ‥っ」
「あれ、大丈夫?玲くん。」
女を自分から引きはがし、長時間止めていた呼吸を再開させる。女はクスリ、と薄ら笑いを浮かべながらわざとらしく首を傾げ、調子を聞いてきた。
「大丈夫じゃねえよ、消えろ雌豚。」
自分でも驚いた。
まさか女相手にこんなにドスの効いた声を出すなんて。しかも、かなり高レベルな暴言。
キスをされたのは気に食わないが、この暴言は許されないだろう。そう思い、意識していなかった目の前の女を視界に入れる。
「‥‥!」
驚いた、その一言だった。
「‥ごめんなさい。玲くんのこと、ずっと見てたから欲が出ちゃった。」
涙を流しながら、女は言ったのだ。
悪かった、ずっと好きだったのだ、と。
「っ‥いや、俺も悪かった。力ずくで‥。
なあ、名前教えてくれないか、?」
直感。
根拠はなかった。
ただ漠然と思った。
コイツとなら、友達として、付き合えると。他の女と違う、しっかりとした引き際をわかっている。
だから、名前を、と思った。
しかし、女はコロンの香りを匂わせながら、横を通り過ぎた、
「フラれた女のプライドを傷付けちゃだめよ。あと、相手の気持ちには、敏感に。自分の気持ちには素直に、ね?」
こう、呟きながら。
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