恋色想い
颯の手が、私の背中から離れていく。
少し名残惜しくて、私は離れていく手をじっと見つめた。
そしたら、その手は私の頬をそっと撫でる。
その手つきがまた優しくて、私の涙はよけいに零れた。
「碧衣の泣き虫。」
意地悪い笑顔を浮かべて、颯は私に言う。
「泣き虫じゃないもん。…私、めったに泣かないんだから…。」
そんなことを言ってみても、きっと、今の私には説得力はないだろう。
ぷくっと頬を膨らませると、颯の手が私の頬をつつく。
「ブサイクな顔が、よけいにブサイクになるぞ。」
優しかった颯は、完全にいつもの颯に戻ってしまったみたいだ。
「もう!颯のバカ!」
明るかった海は、静かに夜を迎えようとしていた。
一番星が、キラキラと輝き始める。
「やっぱり、海はいいなぁ。」
ぽつりと私が呟くと、颯はふっと笑う。
「じゃあ、作戦成功だな。」
不敵な笑みを浮かべて、颯は私に言った。
「…どーいうこと?」
「一番碧衣の心に残る出来事にしてやろうと思ってさ!…まぁ、振られてたら俺の心に違う意味で残ってたけどさ…。」