タテマエなんて、イラナイ――。
もう信じたくないの。
「渡瀬先生っ!」
「今行くっ!」
私を呼んだのは今入っている研修医の草田唐也(クサダトウヤ)くん。
今日は酷い怪我をした猫が運ばれてきた。
私は素早く手当てをし、猫は無事生還した。
暫くは入院になるだろう事を猫の飼い主さん達に話すと、私はスタッフルームに戻った。
「あの飼い主さん達凄く喜んでくれましたね」
嬉しそうに話す草田君。
「猫を救ったんだから当たり前でしょ?はいこれお願いね」
私は当然のように返し、カルテを渡した。
草田君はカルテを受け取ると、“了解しました”っと元気よく部屋を出ていった。
草田君は昔の私にそっくりな気がした。
浮き沈みが激しくて、分かりやすい所とかが特に。
自分で言うのも何だが……。
クスクス笑っていると、医院長が話かけてきた。
「どうしたんだい?」
私は“いえ!”と答えると、パソコンに向き直ったのだった。