天使降臨 (『小説・堕天使無頼』改題)

気がつくと俺は美しい声の女の前に立っていた。


「一番小さいの、ひとつ」


白い息を吐きながら彼女は


「ありがとうございます」


と微笑んだ。


「お客さん、彼女と過ごすのー?」


「もっとおっきいほうがよくなーい?」

「かっこいーから、カノジョひとりじゃないでしょー?」


「もう一個買ってよー!」


ギャルメイク二人は客に礼もいえないのか。


「悪かったな。独り身の甘党で!」


柄にもなく俺は答えて


薄く積もった雪の上をザクザクと歩みをすすめた。


「あの!」


すてん!




背後で

先程の真面目ちゃんが転んだ音だ。


思わず助け起こすと、彼女は

「すみませんすみません!」

とペコペコと何度も頭を下げ謝罪する。

「ああもういいから、怪我ないか?」


「ハイ。すみません!ありがとうございます!」


彼女は衣装の雪を払いながら


「あの子たち、今日明日のバイトで……その、接客も慣れてないだけで……悪気はないんです!」


彼女の胸元にはコンビニの店員証が揺れていた。



『天乃サキ』


か。


「天乃さーん! 何サボってんですかー?」
「逆ナンですかー?」


「オマケ渡すの忘れたの! すぐ戻る!」


「あの、これ、つまらないものですが……」


真っ赤になって妙な言い回しをする、氷のように冷たい指から手渡されたのは、


赤いリボンを結んだ透明ビニール袋入りのケーキ用のローソクと



天使をかたどった

子供が喜びそうな

たぶんケーキにのっける砂糖菓子が入っていた。


袋を渡す彼女の顔をまともに視たのは一瞬。


清楚な

天使というより

どんな芸術家も描いていないマリアに見えた。


「メリークリスマス。仕事頑張れよ」


天乃サキは笑顔で深々とお辞儀をすると持ち場へと戻って行った。
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