天使降臨 (『小説・堕天使無頼』改題)
クリスマスの次はまた恋人たちのお祭りか。

バレンタインに車とはね。


俺は半ば呆れていた。


見るからにホストとキャバ嬢のカップルばかりだ。


どちらも今夜はかき入れ時だろうに。


前から目をつけていたのかダブルブッキングが多いのか、


営業はスムーズで回転も早い。


車。


主に外車のディーラーをしている俺だが別に腕の見せどころなんてなくても良い日だ。


ただ客さばきは早いから忙しい。


成績は常にトップだが、このご時世でやる気がないのか。


それとも別の理由か


誉められもしないがイジメもない。


夕刻近くなり、ひと息つこうかとネクタイを緩めると、


ショーウィンドー越しに店内を覗き込んでいる女に気がついた。



モコモコの白い帽子に同じく長い白いダウンジャケット。ココア色の手袋。黒いタイツに茶色のロングブーツ。


言っては何だが客層に居ないタイプだ。


熱心に見ているのは隅にある、中古の黄色い車?

ポルシェ911カレラ4?


はは。20代普通の女の子がホストにでも貢ぐつもりかな?


俺は営業スマイルを作り店の外へとゆっくり歩き出した。



外は風が強く女の長い髪を乱してしまっていた。

「お客様、冷えますから店内でごゆっくりご覧になるだけでも……」

「きゃっ!」


こっちがびっくりする。が、冷静さを装った。


「いきなり話しかけて驚かれましたね。申し訳ございません。でもこう寒い中では……」


「ごめんなさい! やだ! 私! そちらから丸見えでしたよね!」



あれ?


「天乃さんじゃないですか? 車好きなの?」

その『糸』が


何の色だか知らないし


俺は運命論者じゃない。




不思議な運命の『糸』なんてものがあるんだろうか?


敬語がつい崩れて

再会した、

俺と


天乃サキは


しばし 沈黙して

見つめ合ったまま


棒立ちになった。
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