天使降臨 (『小説・堕天使無頼』改題)
「お仕事中なのに、お邪魔ばかりで、私」


「いや、これも仕事。ディーラー自らチェックもしないと」

俺が申し出ても誰も咎めない。


こんな気まぐれも。


黙ってたって売れる日だ。たまに新車が駐車場にあるのもいいだろう。


「天乃サキさん、おうちは?」

「あ、えっと遠いんで途中でも」


「構わないよ。青森とかならウチに連れて帰りますよー」


サキが硬直する。

「いちいち真に受けなくていいから」


からかわないで下さい。とサキは頬を膨らませた。


「悪かったよ。俺の悪い癖でさ」


サキは微笑んで拗ねた表情を崩した。


俺はなんだか変だ。

いつもなら女が近くに居れば、すぐ遊んでやることばかり考えて、後腐れなく恨まれるような事もない。


妹みたいな?

いや、俺は……。


「鎌倉なんです」


「え?」


「家。一人暮らしですけど」


なんでまた東京のちょっとばかり高級そうな住宅地のコンビニに?


「鎌倉から通ってんの??」


「ええ。配置替えで」


正直呆れた。

というかありえないだろ?


「でも、いいところなんですよ。家はキレイじゃないですけど、好きなんです。鎌倉って」


サキはクッキーの袋を大切そうに、そっと抱きしめた。


クッキーのサクリと割れた音が、サキの笑い声に聴こえた。
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