姫密桜
『私は、この子から
 父親を奪ってしまった・・』

大きなお腹に、そっと
触れながら流した千草の涙と
今の涙は、同じ色をしていた。

『俺が子供の父親になる
 二人で守ってやろう』

「・・・そうだな
 分かったよ」

母の話は、折口さんが
話していたとおり

彼女の父と私の母は幼馴染で
将来を誓い合った恋人同士・・

二人は結婚するはずだったのに
二人の愛を引き裂いたのは
折口さんの母、美鈴さん。

「ミスズは、同性の私から
 見ても憧れる程に魅力的な
 女性だったから、エイジさん
 が彼女に惹かれる気持ち
 私にも分かった・・・

 たった一度の過ちだと彼は
 言い、私はその言葉を信じて
 彼と共に歩むと決めた

 彼の愛を奪ったミスズを憎む
 事で私はエイジの罪を見ずに
 生活を続けた」
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