動き出す時計

「……くたびれた。進路なんてまだ良いじゃん。」


ふぁぁーと、あくびをしながら柚音は紗弥加に話しかける。


「まーねー。私だって全然考えてないよ。どっかの大学に入れればそれで良いしなぁ。」


柚音と紗弥加は考え方がにている。こだわる所はとことんこだわり、興味のないことはとことん興味がないのだ。


そんな気の合う親友だからこそ、なんでも相談できる。


紗弥加は唯一、柚音の親に対する気持ちを知っているし、理解してくれている。


「柚音〜！紗弥加〜！見てよこれ！」


にこにこと二人に話しかけてきたのは柚音の二人目の友人、高橋 南だった。


手には何かの雑誌を持っている。


「どうしたのよ南。」


目をキラキラさせている南に、紗弥加が話かけた。


「今月発売になった『Ｍ＋』!あの《ＭＩＹＡ》が表紙なんだよー！すごい綺麗なの！やばいよ！」


興奮しながら話す南の持つ雑誌を、柚音はちらりと見た。


いくつになっても若さと美しさを保つ、世の中の女性達が憧れる、女優でありモデルの、柚音の母親が、そこでにっこりと笑っていた。


思わず柚音は眉間に皺を寄せる。


それを、紗弥加が見つけてヤバいっ！というように雑誌をひっくり返した。


「わーちょっと、丁寧に扱ってよね！」


「あはは、ごめんね。うん、ＭＩＹＡは綺麗だよね。南と同じでファンの子たちにも自慢してあげなよ。」


紗弥加はわずかに顔をひきつらせながら、南を追いやった。


当の南は、嬉しそうに同じファンの子の下へ走っていった。


「ふぅ。そんなに、綺麗？その人。」


柚音は不機嫌になりながらも、紗弥加に尋ねた。


「あーま、ね。綺麗だと思うわよー私も。柚音にしたら、見方も変わるよね。…娘なんだし。」