迷える仔羊
プロローグ
ピーポーピーポー…
人々が寝静まっている闇の中、救急車のサイレンが轟く。
「うぅっ…葉月…っ」
救急車の中で、お父さんが顔を歪め額に汗を浮かべて唸っている。
「お父さん!!しっかりして…!!」
あたしはギュッとその手を握った。
「後を…頼む…!」
「やだ…っ!!お父さん…ッ!!」
ふっとあたしの手を握る力が抜ける。
「高藤さん!!聞こえますか!?高藤さん!!」
救急隊員も必死で声をかけるが、応答はない。
あたしはサーッと血の気が引いていくのがわかった。
キキッと車が止まって、後ろの扉が開いた。
「着きました!急いで!!」
ガラガラと音を立てて運ばれていくお父さんの隣を、あたしも一緒に走る。
「お父さん!!しっかりしてよ!お父さんっ!!」
白衣の医師と思われる人や看護婦さんたちが駆け寄って来る。
「集中治療室、準備OKです!!」
「患者は○○市××町に住む―――」
「お嬢さんはここでお待ちください!!」
そばにいたあたしは、手術着の看護師さんに行く手を阻まれた。
「お父さん…!!」
パタン…
お父さんを乗せた担架が、集中治療室の中へと消えていった。