迷える仔羊
正確に言うと、あたしは彼女ではなく“彼女のフリ”をしなければならないらしい。
さっき奈緒が言ったように、東雲は毎日呼び出されては告白され、の繰り返しだそうだ。
しかも、告白を断っても諦めてくれない人もいて困っているそうだ。
そこで、あたしに彼女のフリをさせて、諦めさせようというのだった。
「なーんだ、そういうこと?つまんないのー」
「ちょっと…何がつまんないなのよ!すっごい面倒なんだけど!!」
「でもあの東雲くんの彼女でしょ?むしろラッキーじゃない」
「じゃあ奈緒が…」
「い・や・よ。」
あたしはチッと舌打ちした。
「それはそうと…“力”のほうは大丈夫なわけ?彼女として一緒にいるとなると、隠すの難しくない?」
くいっと奈緒は指を動かして、ベッドの上の大きなテディベアを手元に運んだ。
奈緒も、あたしと同じく“力”を持っている。
彼女の“力”はモノを自由に動かす力だ。
まだ力のコントロールが上手くいかない小さい頃、彼女はしょっちゅうポルターガイストを起こしていじめられていた。
それをあたしが助けるうちに、あたしたちは仲良くなったのだ。
「いや、大丈夫でしょ。人前で火を使うなんてこと、普通は無いと思うし。それにあたし、家でシールド張られてるから使えないのに慣れてるし?」
「ふーん…それならいいけど」
奈緒は机の上にあったペンを宙に浮かせ、クルクルと回し、ふと手を止めた。