迷える仔羊
そうして一緒に登校し、学校周辺を歩き出した時からこの昼休みまで、あたしはずっと様々な視線にさらされていたのだった。
ソファーにドカッと腰を下ろし、ローテーブルに自分で作ったお弁当を広げる。
基本的に、お弁当だけでなく家のことは全部あたしがしている。
あたしのお母さんは仕事で世界中を飛び回っていて、年に数回しか帰ってこないため我が家はほぼ父子家庭状態なのだ。
自信作の少し甘い卵焼きを食べようと、お箸をのばした時だった。
「お。美味しそう。」
ひょいっと目の前を黄色いかたまりが通り過ぎて、疲労と視線集中の諸悪の根源の口へと収まった。
出たな…、東雲翔!
「なんであんたがココにいるんだよ!そしてあたしの大事な卵焼きを食べてるのさ!!」
「んー、教室じゃ落ち着かないし。」
モゴモゴと口を動かしながら、のんびり答える。
卵焼きの恨みを示すべく睨んでもスルーだ。
あたしは諦めてハンバーグにとりかかった。
きっと女子がたかってきたんだろうなー。
まぁそりゃ落ち着かないだろう、女子が喜ぶ容姿に生まれちゃったんだし。
そのせいでなぜかあたしまでこうやって迷惑被っているのだ。
「…あんたが一緒に登校したせいで、女子どもにすごい目で見られて、まともに友達なんか出来ないんだけど。どうしてくれんのよ?」
ハンバーグを頬張りながらあたしは恨みがましく言った。
東雲は、よっこいしょ、と断りもなく隣に座って、手に持っていた菓子パンを食べだした。
勝手に傍にきて癪に障ったけど、もうツッコむのも面倒臭い。
「葉月ちゃんなら先生の名前出せば、そのすごい目とやらもおさまって、逆にみんな寄ってくるんじゃないのー?」
おいおい、なんだよいきなり「葉月ちゃん」って…
そう思いながらあたしは、なるほど、とつぶやいた。