迷える仔羊


「…そういえば、先日のバラ騒動はお気の毒でしたね」


ふいに東雲が話題を変えた。

はた、と先輩の手が止まる。


ん?

バラ騒動って、奈緒が言ってたあれ??

バラの鉢が倒れて女子が怪我したってやつ??


「バラは育てるのが大変でしょう?それが倒れてしまうとは…」


さも残念だという風に東雲は言う。


「…仕方ありませんよ。それに倒れたのはあの1鉢だけです。他のバラはちゃんと生きてますから」


答えて相田さんは水を止めた。

彼女は、ふぅ、と息を吐いて、こちらを見る。

あたしと目が合ったが、すぐに東雲へと向いた。


「それで、ご用件は?」


回りくどい東雲に、相田さんが冷たく言う。

ニコ、と東雲は微笑みかけた。


「この子は、俺が選んだ女の子です。彼女たちはもういいでしょう?」

はぁ??

突然何を言ってるんだ?コイツ。

しかもなぜか、「俺が」を少し強調して。

それに最後の言葉の意味がわからない。


相田さんも同じくわからないのか、キュッと眉をひそめた。


「何を言っているのかわからないわ」


「それならそれでいいですよ」


東雲はフッと笑って、元来た方へ歩き出す。

手を握られているあたしもそちらへと引っ張られる。

数歩歩いて、東雲はピタッと止まった。


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