迷える仔羊
「せっかく育てているのです。大切にしては?」
不思議なことを言って、東雲はまた歩みを進める。
「ちょ…東雲??」
まったくコイツは何をしに来たんだ!?
告白されて振るんじゃないのか??
なかなか早いスピードで歩くから、引っ張られているあたしは小走り気味でついて行く。
ふと、いくつか立ち並ぶ温室のなかに、2つ深緑の暗い温室が目に留まった。
中に無数の茎かツタのようなものが見える。
なんだ??あそこ。
少々不気味で気になるが、東雲が早足で進むから、中を見に行くこともできない。
「この…早いっつーの!放せってば!!」
その温室が気になりながらも、あたしは悪態をつきながら東雲を追う。いや、引っ張られる。
なんとなく視線を感じて振り向くと、相田さんがさっと身を翻して作業に戻っていくのが見えた。
東雲は、何が言いたかったのだろうか。
あたしは考えながら、再び前を向いた。
そしてその後ろ姿を、拳を握り締めて、じっと見つめる影があったが、そんなことは知る由もなかった。