迷える仔羊
「ほらほらー、早くしないと遅刻するよー?」
「わっ…わかってるってば!!」
あたしは急いでドアと門に鍵をかける。
「じゃあ、はい。」
にゅっ、と目の前に手が伸びてきた。
「…何?」
「手、繋いでおいた方がいいと思って」
はあ?
「いやいや、結構ですから」
「そう?俺としてはまた誰かに噛み付かないか、心配なんだけどなぁ」
カッチーン
「誰が噛み付くか!!」
失礼な!!何なんだコイツは!?
あたしはフンッと顔を背け、ズカズカ歩いた。
クスクス後ろで笑っているのがわかるから、余計に癪にさわる!
新緑の並木のトンネルに差し掛かると、ザアッと風が吹き抜けた。
それが五月晴れで汗ばんだ肌に心地好く、尖った心を和らげる。
はー、気持ち良い…
と、シュンッと空を切る音がした。
あたしはサッと振り返る。
何かが飛んでいった様子はなかった。
…気のせいか?
「葉月ちゃん、ソレどうしたの?」
「え?」
東雲がかがんで顔を覗き込む。
「な、何が?」
あたしが問い掛けると、スッと親指であたしの左頬を拭った。
「切れてるよ」
東雲の指に、血痕がうっすらとついていた。