迷える仔羊
「うわ、いつの間に…」
切れるようなことしたっけ??
いや、でも血が出てるって事はつまり切れたばっかりだよね??
「っひゃわッ!?」
いきなり頬に得体の知れない感覚が走った。
突然のことに、声がひっくり返る。
「ん、鉄の味」
な、ななな…!!?
「何を…っ!!!!」
あたしは左頬を押さえた。
コイツ…!!もしかして今…っ!!
「えー?何って、舐めただけだけど?」
目を細めてあたしを見下ろし、ニヤッと口角を上げる。
ちょっちょちょっ…
マジで何なんだよコイツー!?
舐めただけって何!?だけって!!
だけで済まない!!
っていうかなんで舐めた!?
あまりの衝撃にあたしは口をパクパクさせていた。
「まぁ、舐めとけば治るって言うじゃん?」
「なっ…だからって不用意に女子の頬舐めるもんじゃないでしょうが!!」
「やだなぁ葉月ちゃんてば、声大きいよ?」
「うるさいわ!誰のせいだ!!」
「ほらまた噛み付いてるー」
「だーっ!!触るなぁっ!!」
おちょくるようにプニッとつついてきた指を全力で払いのける。
いやほんとに何?この人!!
「はいはいもう仕方ないなー。学校行こうねー」
ギャンギャン騒ぎ立てるあたしの手にスッと指を絡めて、東雲は歩き出した。
抵抗する間もなく繋がれた手を引っ張られ、あたしは掴まるような格好になってしまった。
さ…さりげない!!
舐めたり手繋いだり、をいとも簡単に…!!
こういうコトに慣れてるのか!?
しょっちゅうなのか!?
まぁモテるらしいし、女慣れしてそうだといえばそれっぽいけど。