迷える仔羊



あの時足首に感じた感触は、つまづいたという感じではなかった。

掴まれて、強く引っ張られたような気がする。

…幽霊?

いやいやいやいや。

一瞬過ぎった冷たい感覚を、ブンブンと振り払う。

東雲ファンのあくどい悪戯か…?

うん、有り得るな。

東雲と繋いでいた手を放してすぐのことだったし。

「手、放さなかったらこうならなかったかもねー」

「わぁ!?な、なに突然!!」

至近距離で話しかけてきて、あたしは思わず一歩引いた。

「放さなかったら、つまづいても支えてあげられたよ?なのに誰かさんは逃げちゃうしね」

「だ、だってさ」

「まぁおかげで葉月ちゃんの愛を感じたけどね」

東雲が甘ったるい声で意地悪く笑う。

かーッ!!

コイツは…!!

「だからあたしはそんなんじゃない!!勝手に変な解釈をするな!!」

「照れない、照れなーい」

「照れてないわーッッ!!!」

不覚だ…!!

素直に転ぶかせめて電柱にしがみつくんだった!!

「…まぁここまで一緒に来てくれたし、ここからは別々でも大丈夫かな」

ふと、遠くを見つめながら東雲が呟いた。

…お?



< 34 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop