迷える仔羊


「……ゴメン、誰?」

小麦肌で、黒い短髪の男子が、あたしを見下ろしていた。

「おっと…いきなり悪かったね。俺、宇都宮彼方。よろしく!」

「はぁ…どうも、高藤葉月です」

流れにつられて、あたしもマヌケな自己紹介をしてしまった。

彼は少し離れた窓際の自分の席に、この教室のほぼ中央からエナメルバッグを放り投げた。

ボスンと大きな音を立てて、エナメルは綺麗に机の上に着地する。

「な…ナイスショット…」

教室内の誰かが、感嘆の声を上げた。

パチパチパチと拍手が起こる。

「いやー、どうもどうも」

宇都宮はみんなに手を振った。

な…なんなんだコイツ…


教室内の雰囲気が元に戻って、宇都宮はあたしの前の席に腰を下ろした。

「うつのみや、て長くて面倒臭いでしょ。彼方でいいよ」

「いや、別に…」

「俺も葉月って呼ぶし」

「はあ…」

ニコニコしながら言われて、返す言葉に困ってしまう。

体格が割としっかりしてて男!って感じだけど、人懐っこい笑みは小動物みたいに可愛い。

奈緒が今ハマってる俳優に似ているし、コイツもイケメンの部類だろう。


< 36 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop