迷える仔羊
「……ゴメン、誰?」
小麦肌で、黒い短髪の男子が、あたしを見下ろしていた。
「おっと…いきなり悪かったね。俺、宇都宮彼方。よろしく!」
「はぁ…どうも、高藤葉月です」
流れにつられて、あたしもマヌケな自己紹介をしてしまった。
彼は少し離れた窓際の自分の席に、この教室のほぼ中央からエナメルバッグを放り投げた。
ボスンと大きな音を立てて、エナメルは綺麗に机の上に着地する。
「な…ナイスショット…」
教室内の誰かが、感嘆の声を上げた。
パチパチパチと拍手が起こる。
「いやー、どうもどうも」
宇都宮はみんなに手を振った。
な…なんなんだコイツ…
教室内の雰囲気が元に戻って、宇都宮はあたしの前の席に腰を下ろした。
「うつのみや、て長くて面倒臭いでしょ。彼方でいいよ」
「いや、別に…」
「俺も葉月って呼ぶし」
「はあ…」
ニコニコしながら言われて、返す言葉に困ってしまう。
体格が割としっかりしてて男!って感じだけど、人懐っこい笑みは小動物みたいに可愛い。
奈緒が今ハマってる俳優に似ているし、コイツもイケメンの部類だろう。