迷える仔羊
「怪我、ない?葉月ちゃん」
東雲がゆっくりと身体を起こしながら言った。
…うん、どこも痛くないはず。
「あたしは大丈夫だけど…今のは」
言いかけて東雲の後ろを見るなり、ハッとした。
彼の背後すぐそばに、赤茶色の陶器の破片と、乾いた土とチューリップが無惨な姿を見せていたのだった。
じょ…冗談じゃない…
こんなのが落ちてきたなんて…
サーッと音を立てて全身の血の気が引いていくのがわかった。
「…ずいぶんとやってくれるね」
東雲がそうつぶやいたが、あたしの耳には入っていなかった。
これは…いくらなんでも自然に落ちてきたってわけじゃないよね…
だとすると、やっぱり意図的に?
じゃあ一体誰が…
パンパンと制服についた砂を払いながら東雲は立ち上がり、手を差し出した。
「立てる?」
「あ…うん…」
手を握り、引っ張ってもらおうとしたけれど、足に力が入らない。
情けない…
腰、抜けてる……
「嘘ついた…腰抜けて立てません」
あたしは手を離してうつむいた。
騒ぎを聞きつけて、人だかりも出来てきている。
最悪だ。情けない醜態さらすなんて。
ただでさえ、東雲の件でややこしいってのに…
ため息をつきながら、あたしは東雲に言った。
「ゴメン。落ち着いたら行くから、お昼ご飯先に食べに行って」
「…うーん」
口元に手をあてて、くぐもった声を発したあと、あたしのそばに膝をついて目線を合わせた。
「なに?」
妙にいたずらっぽい目で見られて、あたしは首をかしげた。
「…あとで怒らないって約束してくれない?」
「は?」