迷える仔羊


怪訝な顔をしたあたしに、ニヤリと口角を上げて返す。

東雲の手がこちらへ伸びる。

「ちょ…っ!!?わあっっ!?」

膝裏に手を差し入れ、背中を支えて持ち上げられた。

突然の不安定な感覚から、あたしは思わず東雲の首にしがみついた。

きゃー!っていう黄色い声といやー!!っていう悲鳴が同時に起こる。

状況はご察しの通り、お姫様ダッコ。

そのまま東雲は歩き出す。

「東雲っっ!!何を…!?下ろしなさいよ!!」

「抱きしめながら言われても、説得力ないけどなぁ」

あたしは言われてから自分の手に気付き、パッと離した。

「…っこれは突然でびっくりしたからで!!それよりこんなの恥ずかしいってば!!おーろーせーー!!」

冷やかしの口笛や女子たちの様々な声が後を絶たない。

通りすがりの生徒もみんなこちらを振り返って、ジロジロ見てくる。

「あんまり暴れると落ちるから危ないよ?ほらほら、諦めなって」

階段を悠々と上りながら、あたしをなだめる東雲は、どうやら下ろす気は全くなしらしい。

踊り場に立つと足を止め、耳元に唇を寄せて低く囁いた。

「大人しくしてないと、襲うよ?」

「い!?」

甘さを含んだ声色に、あたしはぞくりとした。

その反応ににっこり笑って東雲はまた足を進め始める。

襲うなんていい度胸じゃないの、やってみなさいよ!

黙って負ける葉月様じゃないっつの!!

能力使ってその整った顔に傷つけてやるんだから!!

とは思ったものの口には出さず、仕方なしにあたしは大人しく東雲に運ばれた。

< 43 / 43 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

とあるワンシーンの集まり
林檎犬/著

総文字数/1

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る
ヒーローくん!
林檎犬/著

総文字数/6,585

恋愛(その他)12ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop