迷える仔羊
怪訝な顔をしたあたしに、ニヤリと口角を上げて返す。
東雲の手がこちらへ伸びる。
「ちょ…っ!!?わあっっ!?」
膝裏に手を差し入れ、背中を支えて持ち上げられた。
突然の不安定な感覚から、あたしは思わず東雲の首にしがみついた。
きゃー!っていう黄色い声といやー!!っていう悲鳴が同時に起こる。
状況はご察しの通り、お姫様ダッコ。
そのまま東雲は歩き出す。
「東雲っっ!!何を…!?下ろしなさいよ!!」
「抱きしめながら言われても、説得力ないけどなぁ」
あたしは言われてから自分の手に気付き、パッと離した。
「…っこれは突然でびっくりしたからで!!それよりこんなの恥ずかしいってば!!おーろーせーー!!」
冷やかしの口笛や女子たちの様々な声が後を絶たない。
通りすがりの生徒もみんなこちらを振り返って、ジロジロ見てくる。
「あんまり暴れると落ちるから危ないよ?ほらほら、諦めなって」
階段を悠々と上りながら、あたしをなだめる東雲は、どうやら下ろす気は全くなしらしい。
踊り場に立つと足を止め、耳元に唇を寄せて低く囁いた。
「大人しくしてないと、襲うよ?」
「い!?」
甘さを含んだ声色に、あたしはぞくりとした。
その反応ににっこり笑って東雲はまた足を進め始める。
襲うなんていい度胸じゃないの、やってみなさいよ!
黙って負ける葉月様じゃないっつの!!
能力使ってその整った顔に傷つけてやるんだから!!
とは思ったものの口には出さず、仕方なしにあたしは大人しく東雲に運ばれた。