迷える仔羊
結局あれからお父さんは、放課後に相談室にいろとしか言ってくれなかった。
“迷える仔羊ちゃん”が誰なのかも、仕事の内容も、まったくわからないままだ。
説明不足だし突然すぎるし、一体何を考えているんだか。
「あたしに何しろって言うのよ…」
はあぁ…と大きくため息をついて、あたしは目を通したメモたちをゴミ箱に捨てた。
そのまま廊下に出て、部屋の前の机に相談BOXを戻す。
…あっ!そうだ!
閃いたあたしはぐるっと辺りを見回した。
校舎のはずれにあるこの部屋の前は、普段は誰も通らない。
耳をすませてみても、誰かが来る気配はなかった。
「誰も来ないよね…?」
カラカラとドアを閉めながらそっとつぶやく。
よーっし!!ちょっと遊んじゃお!!
あたしは我ながら素晴らしい考えにウキウキして、右手の人差し指を立てた。
ボッという音をたてて、指先に直径1センチほどの小さな赤い火の玉が現れる。
指先をくるくる回すと、火の玉もくるくると回りだす。
あー、久々だなぁっ!
機嫌が良くなったあたしは、鼻歌を歌いながら火の玉で遊んでいた。