HEMLOCK‐ヘムロック‐番外編
「うん。そんなん。とりあえず見せて、欲しがる人いたら俺に言ってって言っといてよ! 売りは俺がやるから」
断る理由も無く、引き受けてしまったが一応オーナーにも相談しておいた。
「ああ。JINから聞いてるよ。昴もやるんだ。煙草のアピ。頑張ってね」
JINとは仁さんの源氏名だ。
オーナーは店の奴を源氏名で呼ぶようにしている。
そうか、オーナーも了承済みなら大丈夫だろう。
しかしこの時俺はオーナーの“頑張って”の意味を取り違えていた。
「ねぇ? カナさんは煙草吸う? コレJINさん経由の新商品!」
「へぇ~? でもなんか重そう……、あたしメンソール派だからさ。ごめんね昴」
「確かにタール15ミリって重いよなぁ……」
JINさんの煙草はあまり一般ウケするモノではなく、俺が紹介した人で欲しがる人は居なかった。
その日の終わりに聖邇に話しかけられた。
「昴、俺、JINさんの煙草売れたよ」
「まじ? すげーな。俺、3日経ってゼロ」
正直、あんな煙草吸えるのは、ニコチン大好きのオッサンくらいだと思う。
この頃の俺は、煙草は吸っていたが、表記を見ただけでも『HEMLOCK』を吸う気には到底なれなかった。