不協和音
日常編
朝から見たくない人物を見て、思わず溜息を吐く。その溜息に気付いた目の前の人物は、あからさまに肩をすくめ、困ったように首を振る。
「そんなに嫌そうな顔しないでくれないかい?」
「だったら、こんな顔させないで下さい」
「俺の所為だっていうの?」
当たり前だ、馬鹿。大体、このやり取りはもう4回はやっている筈だ。これがデジャヴという物なのか。
というか、この忙しい登校時間を、何故この男に費やさなければいけないんだ。遅刻はしないだろうけど、話をしていると無駄に時間を過ごしていそうで、足を進める。それを気にしていないような様子で、同じようにその無駄に長い足で歩き出す。
この男のムカツクところは、性格がまるで駄目な(まあ、簡単に言えば性格悪い)くせに、眉目秀麗ということだ。何なんだ、こいつ。本当にムカツク。
こいつが歩くと、道端の女達は頬を紅くしながらこいつを見つめる。ようするに、モテ男ってこと。まあ、分かるけどさ。
ちらりと視線をやると、視線に気付いた男は、笑顔を作ってこちらを見る。
「何、俺に惚れちゃった?」
「そんなわけないでしょう。そのめでたい頭をどうにかしたらどうですか」
「酷いなあ。ね、それより、名前で呼んでよ」
どんな話題の変換術だ。この男は突拍子のないことを言う。いつものことだ。ああ、でもいつも、なんて慣れてしまっているみたいで嫌だ。
名前、ね。というか、この男は私が嫌っていることを分かっていて言っているんだろう。だったら、名前の以前に苗字すら呼ばれていないのに、なんて無謀なことを言い出すんだ。・・・まあ、本気で言っているわけではないんだろうけど。
「まあ、苗字すら呼ばれていない貴方は、苗字からですけど」
つまり、田中さんという呼びかたから、ということ。頭1つ分大きいこいつに、馬鹿にしたように言う。すると、男の口元は弧を描く。