不協和音


「ま、とにかく交換しようよ」
「赤外線が楽ですよね」
「まあね」

スライド式の黒い携帯を取り出し、慣れた手付きで操作する田中さんは格好良い。私も慌てて、折りたたみ式の薄いピンクの携帯を取り出す。・・・田中さんは格好良いけど、やっぱり性格がおかしいから駄目だよ。というか、何を考えているんだ、私は。

赤外線で無事交換し終わったら、田中さんから「1日1メール!てな感じで、1日1回はメールしようね」と、にこやかに言われた。気分としては、複雑だった。
メールはしてもいいが、そんなあからさまに決められたメールは嫌だった。束縛されている感じがした。・・・まあ、ナチュラルにだけど。

「じゃあ・・・。たまには、店にも来てよ」

実は、初めて会ったあの日以来、あの店には行っていなかった。また、田中さんに絡まれるのが怖かったから。今となってはもう、どうでもいいことだけど。

「あ・・・、そうですね、考えておきます」

バイバイ、と手をひらひらと振りながら、田中さんは人混みの中へ消えていった。それが妙に切なく感じた。直ぐに田中さんの姿は見えなくなった。
顔見て手を振ってくれてもいいのに・・・、と小さく声に出してしまった。が、その声もまた、人混みの騒音でかき消されてしまった。

私は、しばらくそこに立ち止まってしまった。

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