不協和音


笑い終わった田中さんは、「それじゃあ行こうか、お姫様」と言って、私に手を差し伸べる。それを素直に受け取って、今日はどこへ行くのかと尋ねる。

「欲しい物とかある?俺はあるよ。だけど今日はまだ駄目みたいだ」
「欲しい物は無いですけど・・・。田中さんの欲しい物って、何ですか?」
「・・・教えて欲しいの?」

ニヤリと口元に弧を描く田中さんは、妖艶だ。教えて欲しいっていうか、それは聞いて欲しいんじゃないのか、とは言わなかった。言ったら、なんか色々言われそうだったし。

「いえ・・・、知りたくないです」
「なんだ・・・残念」

そこまで残念じゃなさそうに言う。そんなだから、田中さんの本心とか分かんないんだ。謎だ、田中さんは。
・・・なんで私と居るんだろうか。結構酷いこと言っている気がするんだけど。何故それでも私の所へ来るのか。・・・まあ、訊いてもはぐらかされるんだろうけど。

「じゃあ、指輪買ってあげる。最近、ペアリングとか人気だからね。あの有名なお店で買おう」
「ちょ、なんでそうなるんですか!?大体、指輪って・・・高いですし、いいですよ・・・」
「大丈夫!なんのために、俺が一生懸命働いてたと思うの」

・・・私の為ですか?なんて、自意識過剰発言は控えておく。痛い子になんて、なりたくないから。
というか、本当に買うつもりなんだろうか。いや、なんかこの人本当に買いそうだ。ああ、もう、そんなことしなくていいのに!

唯、一緒に過ごすだけでいいのに。

< 22 / 48 >

この作品をシェア

pagetop