不協和音


有名なジュエリーショップに足を運ぶ。店内に入ると、カップルで埋め尽くされていた。
・・・場違いじゃないだろうか。というか、なんでペアリングを買いにきたんだ?ああ、田中さんの突拍子も無い考えにはついていけない。

「あの・・・、田中さん・・・」
「あ、これ下さい。あー、もうそんな包まなくていいですよ。その場でつけますから」
「え、た、田中さん!?」
「かしこまりました」

店員さんがテキパキと作業をすすめる中、私は未だに意味が分かっていなかった。
田中さんが『これ下さい』って言って、店員さんが指輪を取り出して・・・。え、やっぱり買うの!?
わたわたしながら田中さんを見上げると、視線に気付いた田中さんは、笑みを浮かべる。そして、店員さんが指輪を目の前に置きながら、口を開く。

「2万5千2百円になります」
「はーい、丁度ありますよ。あ、レシートとか要らないから」
「はい、丁度ですね。お買い上げ、ありがとうございます」

そして、そのまま田中さんは指輪を左手の中指にはめた。私がその姿をぼうっと見ていると、手を持ち上げられ、同じように左手の中指にはめられる。
はめたであろう人物を見ると、優しい笑顔を返された。

最近、よくこの笑顔を見せてくれるようになった。

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