不協和音


田中さんと初めて会ったのは、彼が働く花屋さんだった。4月の始め、ようやく慣れ始めた高校の2年生となった頃。新しく花屋さんが出来たと聞いて、興味本位で見に行ったことがキッカケ。

中に居たのは、花屋さんの仕事用のエプロンを着た、白い肌に漆黒の髪がよく似合う、眉目秀麗な青年。慣れない手付きで、水分を含んだ花々を、骨張った手で掴んでいた。時折、「あー」や、「うーん」など声を漏らしながら、作業していた。その声を聞いた瞬間、ぞくっとしたのが分かった。あと、胸がぎゅってなった。良い声、だった。完璧過ぎるんじゃないんだろうか、と勝手に観察しながらそう思った。

「・・・ね、これ君みたいだと思わない?」

ふいに声を掛けられ、思わず肩をびくつかせてしまう。しまった、変に思われてしまっただろうか。いや、でも、観察と考えに耽っていたとはいえ、いきなり声を掛けてくるから・・・。などと言い訳をしながら、青年に焦点を合わせる。
目の前には、紅い小さな実とギザギザの葉をつけた茎。青年が笑顔で目の前に突き出す。・・・どんなリアクションしたら良いの?

「これ、アオキって言うんだけどね。花言葉は、『若く美しく』なんだよ」
「・・・そうなんですか。どこかへんが私みたいだと思ったんですか?」

一応、訊いておく。初対面の相手からのイメージなども聞けると思ったし。というか、それ以前に、何故初対面の相手からこんなことされなきゃいけないんだ。大体、ファーストコンタクトがこれって、何だ。何なんだよ。

「え、だって君、高校生でしょ?若いし美しいから!アハハハハ!」

お腹を抱えて笑う青年に、ピシっと固まってしまった。先程観察していたときとは大違いだ。こんな人だったか。なんか阿呆みたいだ。依然として青年の笑いは止まらない。


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