不協和音


「そういえば、沙也ちゃん、メアドとケー番教えてよ」
「どうしたんですか?急に・・・」

目を軽く見開けば、隣に居る田中さんは、くすっと笑って(あ、初めてその笑顔した)、目を細めながら私を見つめる。そして、口元を緩く持ち上げながら、「まだ教えてもらってなかったし」と、答える。
まあ、知人以上友達未満なのだから、教えていないのは当然だ。というか、そうホイホイと出会ったばかりの人間に、連絡先を教えるわけがない。

「・・・知りたいんですか?」
「うん。だから訊いてるんだよ」
「・・・」

そんな満面の笑みで返されても、ちょっと戸惑う。満面の笑みなんて、滅多にしない田中さんだから。・・・困ったな・・・、なんか断りにくい。
それにしても、私って少し成長したんじゃないかな、田中さんに対して。だって、前までなら『私が貴方に教えると思いましたか』とかなんとか言ってるだろうし。・・・大人になったんだなあ・・・。
少し考えてから、田中さんのほうを見る。すると、ずっと見つめていたらしく、バチっと目が合った。・・・そんなに見なくてもいいじゃない。

「えと、その・・・、い、良いですけど」
「・・・・・・え?」

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