両手でも足りない
ドアが開いた先に笑顔のトモくんがお出迎え。爽やかなその笑顔は、どっかのお隣さんとは別格だった。


森野朋春(モリノ トモハル)くん。あたしの1つ上のトモくんは今年から高校生。

お隣さんでもあり、幼馴染みでもあるけれど、トモくんは年上だからお友達というよりは、お兄ちゃんって感じかな。

年は1つしか違わないのに、仕草だとか話し方とか穏やかだからか、異様にトモくんが大人っぽく見える理由は、きっとそれだけじゃないんだろうな。


「お母さん、喜んでたよー。ありがとうって。お礼にまた性懲りもなく…」

紙袋から包まれたままのケーキを手渡して、あたしは自分ちみたいに堂々とソファーに腰をかける。

お母さんはしっかり者のトモくんがお気に入りで、ことあるごとに『青海のこともらってくれないかしら』って、飽きもせず言う。トモくんには彼女ができたのに、ちっともめげないんだから。


「うまそー。いただきます」

にこやかな笑顔を作り、両手で受け取ったケーキを額にくっつけるかのようにして、お礼を述べたトモくん。


トモくんは別に甘いものが特別好きだってわけじゃないのに、何故かあたしのお母さんが作るパウンドケーキは好きみたい。

これだけは食べられる。と、美味しそうに食べつくしちゃう。きれいに平らげてくれるから嬉しくなって、お母さんも頑張っちゃうわけなの。
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