両手でも足りない
…だけど、なんの因果関係があるのか。


「腕当たる、チビのくせに」

ヤツの視線は黒板に向けられたまま、あたしの腕を思いきりどつく。


「な、そっちが図体デカイからじゃん」

「うるさい。チビのくせに声がデカイ」

威勢のいい反抗も虚しく。そう罵られ、あたしの唇はわらわらと震え出す。


言い返したいのは山々だけど、ここは授業中。我慢、我慢…。

心の中でそう言い聞かせ、あたしは捨て台詞みたいに。

「ふん、だっ」

と、わざと聞こえるように声を上げそっぽを向く。多分、この言動がヤツにそれを言わせてしまうのだろう。


「ガキ」

ボソッとヤツの口からこぼれ落ちた言葉に、あたしはジロッと隣に目をやる。

なんでもないような澄ました顔をして、マジメに科学の授業を聞いている。


“岩佐”、“五十嵐”で男女の出席番号は隣同士。

新学期、出席番号順で席に着くと、並んだ机の前であたしは大声を張り上げた。


『えーっ!!またー!?』
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