両手でも足りない
家がある方向から何も知らず、颯爽と駅へと向かってくるアイツ。

「なんだ海斗じゃん」

ボソッと呟いたトモくんの腕をあたしは両手で強く握る。


「しーっ!」

決してうるさくもないトモくんに、大袈裟な反応を見せたあたし。


無駄に前屈みになるあたしに合わせて、頭の位置を下げたトモくんの視線も、現れた海斗に奪われていた。


黒のジャケットに細身のジーンズ、いつもと変わらない私服で、ワンポイントとしてさりげなく手首と首元にはシルバーアクセを身につけている海斗。

あたしたちが隠れているトラックを素通りし、いかにも田舎だという看板を掲げているような、JR駅の入り口を抜けて行く。


「トモくん!行くよっ!」

「はあっ?」

変な声を上げたトモくんの腕を強引に引っ張り、改札の奥へと消えた海斗を追う。
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