両手でも足りない
10分も電車に揺られていれば、ほんの小さく窓に移る小さな町が見えてくる。

地元のみんなはこの町へ買い物を済ませる。大きくもなく、ここらで唯一栄えている町だった。


こんなところに毎日毎日なんの用があって、わざわざ電車に乗って来るのか。

ただの興味と言えばそれまでだし、海斗が好きだからと問われれば、即答できない。


「要は、複雑なんだな」

トモくんのその一言で片付けられるのは、それはそれで不満だった。


「俺が聞いてやろうか?」

と言う申し出に、ただ首を横に振るあたし。


「これくらい自分で聞くよ」

「青海にできんの?」

ちょっぴり小バカにした発言に「へえ~」と、鼻にかけたような声を出したトモくん。


そんなトモくんをムキになって睨み付けようとした時。

電車がゆっくりとホームへと導かれていく。
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