両手でも足りない
いくら栄えている町と言っても海沿いなのは変わりなく。

ホームに降り立っても海の匂いが続いている。


警笛が鳴り響き、乗ってきた電車はゆっくりとその姿が小さくなっていった。


「さてと、あいつどこ行ったんだ?」

静かになり始めたホームをキョロキョロと見渡すトモくん。


あたしも同じようにホームから先にある階段を見回した。


「いないじゃんあいつ。ほんとに降りたのか?」


トモくんが言うように海斗の姿形はなくて、あたしはほんの数分前の記憶を辿る。


間違いなくアイツは座席から腰を上げ、乗車扉の前でドアが開くのを待っていた。

確かに降りたはずの海斗。なのにその姿がないとはどういうことなんだろう。


「アイツ、足早いからもう階段上がったんじゃ…」

不安そうに錆び付いた古い階段を見上げた。


「おい、何してんだ?」
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