真夜中のカラス達へ
三月二十日―まだ桜が咲いていない。

春になると満開なる桜並木を想像しながら走っていた。
まだ夜明け前だった。

ようやくジョギングを終えた青年が
全寮制の私立星光(ほしみつ)館(かん)学園高等科の寮に帰ってきた。
トレーニングを終えて、汗まみれの身体を洗い流す為に特別寮には、
個別にあるバスルームで汗を流す。

本来、通常の寮にはないのだが特別寮にはそれが許されていた。
短めの白髪、傍目では普通の十七歳男児に似合った体格にみえるが脱ぐと
傷跡や鍛えられた筋肉がついていた。

彼の名は、日野(ひの) 泰樹(たいき)。
現在、この学園は春休みである。

ほぼ全生徒等は、実家へと帰省していく。
泰樹にも帰るべき実家はある。

だが中等科からこの学園に転入して以来、約五年も帰っていない。
帰りづらいというわけではないが
日頃からの鍛錬やこの任務に集中する為と理由は、もう一つあった。
実家にいる妹の為にあるかぎりの敵達から『眼』をこちらにむかすという役目もになっていた。

左こめかみにある傷を絆創膏で隠す。特に目立つわけではないが自然と癖になっていた。
泰樹は、携帯が鳴った。着信元は、妹の千世(ちせ)だった。

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