甘味処[斬殺]
祐樹の話。

1:甘いものの話

その場には、二人の人間がいた。

一人は黙っていた。
一人は困っていた。

「……」

「…さて、困ったね。」

困っている方は、黙っている方を見下ろして呟いた。見下ろす顔はだいぶ若く、十代半ばか、もう少しというところ。
黙って倒れている男の首には斬られたような傷が付いている。そこから多量の血液を流し、男は黙って絶命していた。

「本当に困った…この靴、ちょっと高かったのに」

よく見ると、見下ろしていたのは靴だった。血飛沫が散ったらしく、点々と赤黒い跡が付いている。
幸いにして血溜まりの中には踏み込まなかったようで、周囲に赤い足跡は無い様子。困っていた方はそれを確認してから靴を脱いで鞄に入れ、代わりにタオルを二枚出して片足ずつ全体を覆うようにして縛った。
それから可能な限り痕跡を残さないように、慎重に歩いていった。

(僕の場合、1対1より人混みの方が誤魔化しやすいんだよね…無意識にしてる事なのはわかってるけど、そのくらい配慮してくれたらいいのに)

自分の「無意識殺人」に対して無茶な注文を付けながら、困っていた方は家路についた。

黙っていた方は、相変わらず黙ったままで横たわっていた。
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