甘味処[斬殺]
トントン、と不意に肩を叩かれて、祐樹はビクリと反応。慌てて振り向くと、そこに見慣れた顔を見つけて歓喜した。
「てっちゃん!」
そう呼ばれたのは、祐樹が常連化しているゲームセンターのやはり常連である「てっちゃん」こと[夏川鉄人(ナツカワ・テツヒト)]。祐樹が殺人鬼であることを知っており、それでも親しく接してくれる、祐樹の掛け替えのない友人の一人だ。
裾の長い紺のコート、両耳に二つずつのピアス。さらに黒のドレッドヘアーと、彼なりにセットしているらしい顎髭。それだけ見ると悪人にしか見えないが、祐樹は彼が誰よりも「優しい」人間だと知っていた。
「祐樹、狩りの時は適当に手加減しなきゃ駄目だぞ。あんまり圧倒的だと後が続かないからな」
祐樹に上級者としてのレクチャーをする鉄人。彼自身その作戦で80連勝という記録を打ち立てたのだから、レクチャーに間違いはない。
…のだが、祐樹の性格はその作戦を使うことを拒ませた。
「でも僕は手加減とかできる人じゃないし、わざと負けるとか嫌だし。それよりてっちゃん対戦してよ」
「ほう、俺に対戦を申し込むとは良い度胸じゃ。負けて泣くなよ」
半ば無視してCPU戦を適当に繰り広げる祐樹を上から指差しながら、鉄人は反対側の台に回った。百円玉の落ちていく音が、祐樹の耳に妙に大きく聞こえた。
祐樹の格闘ゲーム好きには理由がある。もちろん単に好みの問題もあるが、それとは別に。
キャラクター達の常人離れした能力が好きなのだ。それは子供が抱くようなヒーローへの憧れではなく、ある種の「同族」に対する仲間意識だった。
有り得ない高さの跳躍や、人間を何mも吹き飛ばす打撃。気だとか超能力的なものを除けば、それらは大抵祐樹にも可能だ。二段ジャンプや空中ダッシュは、流石にできなかったが。
「てっちゃん!」
そう呼ばれたのは、祐樹が常連化しているゲームセンターのやはり常連である「てっちゃん」こと[夏川鉄人(ナツカワ・テツヒト)]。祐樹が殺人鬼であることを知っており、それでも親しく接してくれる、祐樹の掛け替えのない友人の一人だ。
裾の長い紺のコート、両耳に二つずつのピアス。さらに黒のドレッドヘアーと、彼なりにセットしているらしい顎髭。それだけ見ると悪人にしか見えないが、祐樹は彼が誰よりも「優しい」人間だと知っていた。
「祐樹、狩りの時は適当に手加減しなきゃ駄目だぞ。あんまり圧倒的だと後が続かないからな」
祐樹に上級者としてのレクチャーをする鉄人。彼自身その作戦で80連勝という記録を打ち立てたのだから、レクチャーに間違いはない。
…のだが、祐樹の性格はその作戦を使うことを拒ませた。
「でも僕は手加減とかできる人じゃないし、わざと負けるとか嫌だし。それよりてっちゃん対戦してよ」
「ほう、俺に対戦を申し込むとは良い度胸じゃ。負けて泣くなよ」
半ば無視してCPU戦を適当に繰り広げる祐樹を上から指差しながら、鉄人は反対側の台に回った。百円玉の落ちていく音が、祐樹の耳に妙に大きく聞こえた。
祐樹の格闘ゲーム好きには理由がある。もちろん単に好みの問題もあるが、それとは別に。
キャラクター達の常人離れした能力が好きなのだ。それは子供が抱くようなヒーローへの憧れではなく、ある種の「同族」に対する仲間意識だった。
有り得ない高さの跳躍や、人間を何mも吹き飛ばす打撃。気だとか超能力的なものを除けば、それらは大抵祐樹にも可能だ。二段ジャンプや空中ダッシュは、流石にできなかったが。