レイコーン


「どうしよう、早く宿題しないといけないのに…」

 

マールは看板を見ながら
この期に及んでまだ、宿題をしようという意志が内在している。
社会に縛られた少年は不測の事態にも対する対応が鈍い。

 

いや、どうやってこの場を抜け出すことを考えるよりも

現実逃避したほうが楽なのかもしれない。

 

しばらくそこに立ち止まって見渡すものの
出口はない。変な声も聞こえなくなっていた。

 

今は湿ったレンガの建物の
雨樋から水が流れる音しか聞こえない。

 

「早く帰りたい。でも・・・。」

 

少しだけ、ニコスの噂話が頭をよぎる。

 

「普通では絶対に行くことができない不思議な通り…か。」

 

マールは月曜日に
この道を探検したことを
みんなに明るく話している様子を想像した。

 

「ニコスのように話題があったら、僕は独りで帰らないでいいかもしれないな」

 

もしかして、
ちゃんとした友達ができるかもしれない。
大きく息を吸い、手に力が入った。

 

「よし!」

 

何がよしなのかわからない。
だけど、気合を込めたマールは
恐怖と、希望にも似た感情を手にしていた。
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